というCEPR論文が上がっている(Mostly Economics経由のVoxEU経由、ungated版)。原題は「Learning from the Past: How History Education Shapes Support for Extreme Ideology」で、著者はボッコーニ大のLuca BraghieriとSarah Eichmeyer 。
以下はその要旨。
Can teaching the history of authoritarian regimes built on extreme ideology lastingly reduce support for those ideologies? We examine this question by leveraging a natural experiment in a large German state where the senior high schoolhistory curriculum exogenously alternated covering, across cohorts, the communist German Democratic Republic and fascist Nazi Germany. Survey data collected around twelve years post-graduation from over 2,000 former students reveals that studying the GDR rather than the Nazi regime increases knowledge about the GDR (by 0.19 sd units) and reduces support for extreme left-wing ideology (by 0.10 sd units). Such treatment does not increase support for extreme right-wing ideology, except in more right-leaning regions.
(拙訳)
極端なイデオロギーに基づいて打ち立てられた専制主義的な体制の歴史を教えることは、そうしたイデオロギーへの支持を減らすだろうか? 我々は、ドイツの大きな州での高校の歴史カリキュラムのカバー対象が、コホートごとに、共産主義のドイツ民主共和国とファシズムのナチスドイツに外生的に交互に変わった自然実験を利用してこの問題を調べた。卒業からおよそ12年後に2千人以上の卒業生から収集された調査データは、ナチよりも東独の体制を勉強することの方が東独についての知識を(0.19標準偏差だけ)増やし、極端な左派のイデオロギーへの支持を(0.10標準偏差だけ)減らすことを明らかにした。そうした処置は、右寄りの傾向が強い地域を除き、極端な右派のイデオロギーへの支持を増やさなかった。
ニーダーザクセン州では、アビトゥーア(cf. アビトゥーア - Wikipedia)改革の一環として、2011-12年卒業生には東独の歴史を教える一方でナチスドイツの歴史は教えず、2009-10卒業生と2013-14卒業生にはナチスドイツの歴史について教える一方で東独の歴史は教えなかったとの由。調査は2023-2024に行われたので、卒業からおよそ12年後ということになる。
以下はコホートごとの学習対象の知識を示した論文の図。
左派のイデオロギーとしては左翼党(Die Linke、cf. 左翼党 (ドイツ) - Wikipedia)、右派のイデオロギーとしてはAfDの綱領を用いたとの由。
ニーダーザクセン州は旧西独だが、その中でも右派傾向の高い地域(AfDの支持率が高い地域)では、東独について勉強した人は右派を支持する傾向があったという(下図)。
以下のYouGov調査結果などで示されているように旧東独でAfDが支持を伸ばしていることを考えると、この結果は示唆に富んでいるように思われる。
YouGov's MRP for the 2025 German election shows a strong East/West divide, with the AfD leading in all but two constituencies in the former East Germanyhttps://t.co/9UMT1N9AYWpic.twitter.com/iYR3L1cK2x
— YouGov (@YouGov) 2025年1月17日