というNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「LASH risk and Interest Rates」で、著者はLaura Alfaro(ハーバード大)、Saleem A. Bahaj(ユニバーシティカレッジロンドン)、Robert Czech(BOE)、Jonathon Hazell(LSE)、Ioana Neamtu(BOE)。
以下はその要旨。
This paper studies a form of liquidity risk that we call ‘Liquidity After Solvency Hedging’ or “LASH” risk. Financial institutions take LASH risk when they hedge against solvency risk, using strategies that require liquidity when the solvency of the institution improves. We focus on LASH risk relating to interest rate movements. Our framework implies that institutions with longer-duration liabilities than assets—e.g. pension funds and insurers—take more LASH risk as interest rates fall. Using UK regulatory data from 2019-22 on the universe of sterling repo and swap transactions, we measure, in real time and at the institution level, LASH risk for the non-bank sector. We find that at the peak level of LASH risk, a 100bps increase in interest rates would have led to liquidity needs close to the cash holdings of the pension fund and insurance sector. Using a cross-sectional identification strategy, we find that low interest rates caused increases in LASH risk. We then find that the pre-crisis LASH risk of non-banks predicts their bond sales during the 2022 UK bond market crisis, contributing to the yield spike in the market.
(拙訳)
本稿は、「支払い能力ヘッジ後の流動性」ないし「LASH」リスクと我々が呼ぶ一種の流動性リスクを研究する。金融機関は、自分の支払い能力が改善した時に流動性が必要となる戦略を用いて支払い能力リスクをヘッジする際に、LASHリスクを取る。我々は金利の動きに関連するLASHリスクに焦点を当てる。我々の枠組みでは、負債のデュレーションが資産より長い機関――年金基金や保険業者など――は金利が低下するとLASHリスクをより多く取ることになる。2019-22年の英ポンドのレポとスワップ取引全ての英国の規制データを用いて我々は、非銀行部門のLASHリスクをリアルタイムかつ機関レベルで測定した。LASHリスク水準がピークを迎えた時には、金利の100ベーシスポイントの上昇が、年金基金と保険部門の保有現金に近い流動性を要求したであろうことを我々は見い出した。横断面の識別手法を用いて我々は、低金利がLASHリスクの増加をもたらしたことを見い出した。次に我々は、危機前の非銀行部門のLASHリスクが、2022年の英債券市場危機において、市場での利回り急騰に寄与したそれら機関の債券売却を予測したことを見い出した。
通常の流動性リスクは支払い能力が悪化すると顕在化するが、LASHは支払い能力が改善すると顕在化する点で異なる、という。例えば負債のデュレーションが長く資産のデュレーションが短い基金では、金利が低下すると負債価値が資産価値よりも増加するため、支払い能力が低下する。基金は、金利が低下すると価値が上昇する金利スワップを用いて、この支払い能力リスクをヘッジすることができる。このヘッジ戦略では、金利が上昇すると流動性が必要になる。金利が上昇すると、スワップの価値は低下し、基金は取引相手にスワップ価値の低下分に等しい流動資産(「マージン(証拠金)」)を支払わねばならないためである。このマージンの必要性がLASHリスクを表していることになる。