というSSRN論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Bitcoin: New Financial Order or Libertarian Dystopia? An Answer from The Past: Free Banking in Scotland 1727-1845」で、著者はMatthew McCaffrey(マンチェスター大学)、Joseph T. Salerno(ミーゼス研究所)、Carmen-Elena Dorobat(マンチェスター・メトロポリタン大学)。
以下はその要旨。
This research debunks the myth of Bitcoin as a new financial order by using a historical example. The 2008 financial crisis sparked many doubts over the role of central banks, renewing libertarians' argument for a decentralised system of money supply. In the same year, Bitcoin was born and aimed to create a monetary regime independent from central banks. Libertarians hailed the new financial revolution, seeing a resurgence of the glorious era of free banking. This research establishes a parallel between Scottish free banking and the cryptocurrency market, arguing that allegedly decentralised financial systems can potentially evolve into monopolistic structures.
(拙訳)
本研究は、歴史的な事例を用いて、新たな金融秩序としてのビットコインという神話の嘘を明らかにする。2008年の金融危機は中銀の役割について多くの疑問を招き、貨幣供給の分権化システムを推奨するリバタリアンの議論を蘇らせた。同じ年、ビットコインが誕生し、中銀から独立した貨幣レジームを創造することを目標とした。リバタリアンは新たな金融革命を囃し、フリーバンキングの栄光の時代の復活をそこに見た。本研究はスコットランドのフリーバンキングと仮想通貨市場の類似性を明らかにし、分権化された金融システムとされるものが独占構造に発展する可能性があると論じる。
結論部によると、スコットランドのフリーバンキング時代*1では、スコットランド銀行(Bank of Scotland)とロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(Royal Bank of Scotland)の2つの発券銀行が当初は競合していたが、1752年に共謀し、複占体制を築いて新規参入を妨げ、金融政策を策定して金融危機時には最後の貸し手として振る舞うようになったとの由。
一方、ビットコインは、分権化金融システムを標榜し、多数のクローンが生み出されたものの、市場での優位性から独自の地位を保持しており、仮想通貨におけるドルと見做すことができる。そのため、他の仮想通貨市場に大きな影響力を有している。また、多額のビットコインを保有している限られたユーザーがビットコインの価格を操作して、自分の有利になるようなプロトタイプの金融政策を実施することができる。第三者による信頼性の担保を避けるというビットコインの技術的解決法は、技術を盲信するあまり、ユーザーではなくマイナーと開発者にプロトコル変更の力を集中させたことによって無効となった、という。
結局、両者とも集権的なシステムに堕した、というのがこの論文の見解である。